①不整脈の予防
・グルコン酸カルシウム製剤(カルチコール)を静脈内投与
②細胞内への取り込み
・グルコース+インスリン(GI療法)
③体外への排出促進
・イオン交換樹脂
・利尿薬
・血液透析
高カリウム血症の定義は血清K≧5.5mEq/Lとされていますが、多くの場合、実際の臨床症状が出現するのは重症(K≧6.5mEq/L)になってからであり、早期の発見と対応が必要になります。緩徐な上昇の場合などは心電図変化が検出されにくいため、血清カリウム検査が診断と治療効果判定の基本となります。
病因
高カリウム血症は、
①細胞からのKの流出(細胞膜を介した移動)
②腎臓でのK排泄不全
高カリウム血症の原因が不明な場合には、スポット尿中カリウムの測定が有用。
30mEq/L超の高カリウム尿ならば細胞膜を介したカリウム移動が、また30mEq/L未満の低カリウム尿ならば腎臓から排泄不全が考えられます。
①細胞膜を介したカリウム移動
細胞内から細胞外へのKの移動を伴う状態としては、代謝性アシドーシス、インスリン欠乏、組織損傷(横紋筋融解症、外傷、熱傷、腫瘍崩壊症候群、消化管出血)、薬剤性、溶血(血管内溶血、赤血球輸血)などがあります。
②腎臓での排泄障害
腎機能が正常であればKを負荷しても95%は腎臓から排泄することが可能です。
このため高カリウム血症の原因としては常に腎臓でのK排泄障害を疑います。
腎臓からのK排泄障害の主な原因には、腎不全、副腎機能障害、薬剤性があります。
腎不全では糸球体ろ過率(GFR)が10mL/min未満に低下しない限り高カリウム血症は通常起こりませんが、腎不全が間質性腎炎に由来する場合には、それ以前に出現することがあります。
副腎機能障害では腎臓でのカリウム分泌が障害されますが、高カリウム血症がみられるのは慢性副腎不全のみです。
高カリウム血症の原因となる薬剤一覧
①細胞膜を介した移動促進
理由 | 薬剤 |
---|---|
細胞内Na-K-ATPase阻害 | β遮断薬、過量のジギタリス、カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムス)、サクシニルコリン |
細胞脱分極 | スキサメトニウム |
水が細胞外へ移動する時にKの移動も伴う | 高浸透圧薬(マンニトール、濃グリセリン、デキストラン、HES製剤、静注用アミノ酸製剤など) |
②腎臓での排泄障害
理由 | 薬剤 |
---|---|
アルドステロン合成抑制 | ACE阻害薬、ARB、NSAIDs、ヘパリン、ケトコナゾール(アゾール系抗真菌薬)、カルシニューリン阻害薬 |
アルドステロン作用抑制 | スピロノラクトン、エプレレノン、カルシニューリン阻害薬 |
皮質集合管尿細管の上皮型Naチャネル(ENaC)を抑制 | トリメトプリム(ST合剤)、ペンタミジン、トリアムテレン、ナファモスタット |
③カリウム負荷する薬剤
カリウム製剤、高カロリー輸液、ペニシリンGカリウム
注意:偽性高K血症
頻度は比較的高いため、Kの再検を並行して行います。偽性高K血症は過剰な採血の際の離握手、溶血、白血球増多(>7万/μL)、血小板増多(>50万/μL)などで起こります。特に血清Kと血液ガスのK濃度が乖離する場合には偽性高K血症を疑ってください(多くは血液ガスの値が正しい値です)。
偽性高K血症の検索は重要ですが、それ以上にリスクの高い症例において高K血症の対応が遅れてはいけません。
臨床症状
高カリウム血症における最も危険な徴候は、心筋細胞の脱分極により心臓の興奮伝導の遅延が起こり、心ブロックや徐脈性心停止が起こることです。
また筋力低下に伴う腱反射の低下や脱力・全身倦怠感、感覚異常などの非特異的な症状を認めることがあります。
心電図変化
テントT波形、徐脈、房室ブロック、wide QRS、サインカーブ、P派消失、致死性不整脈などあります。
下図は高カリウム血症時の心電図変化の参考。
図:月刊薬事2019 vol.61 No.7より
上図12誘導心電図は筆者が遭遇した症例。CAVB(完全房室ブロック)で心拍数28のwide QRS波形で心室補充調律になっている。この時の血清カリウム値は6.7mEq/L。急激なカリウム上昇では数値と相関せず重篤な状況になりうることに留意した方がよい。
高K血症に対する治療
高カリウム血症の治療には「緊急性の高い高カリウム血症」と「緊急性のない慢性的な高カリウム血症」に分類されます。
緊急性の高い高カリウム血症の治療
治療目標としては不整脈を防ぎ命を守ることになります。
Kの投与や血清K濃度を上昇させる薬剤を中止することに加えて、心電図異常などを示す高度の高K血症に対してはグルコン酸カルシウム、インスリン+ブドウ糖、場合によって重炭酸Naを静脈内投与することで細胞内に過剰なKを移行させ血中濃度を低下させます。
ただし、これらの治療効果は一過性であり、生理食塩水の大量投与、利尿薬投与、血液透析などにより体外からKを排泄させるのが最も有効です。
鉄則ですが除細動器を近くに置いておくことから始めます。
薬物治療の具体的な処方としては①~③の順に治療を進めていく
①細胞膜を安定化して不整脈予防(まず最初に行う治療)
8.5%グルコン酸カルシウム 10mL iv(1~3分かけて末梢より静注)
変化は1~3分で始まり、効果は30~60分しか持続しない。
注意:ジキタリス中毒時にはカルシウムは禁忌。
機序:細胞内電位の異常から生じる心臓や骨格筋系細胞の興奮の安定化。
副作用:血管外へ漏出すると壊死が生じる。
②カリウムを細胞内へ移動
GI療法
50%ブドウ糖50mL+レギュラーインスリン5~10単位を静注。
10~20分で効果が発現し始め、30~60分でピークに達し、4~6時間効果が持続。
機序:細胞にあるNa-H交換体を活性化して、細胞内Naが増えることからNa-K-ATPaseの活性化を介して細胞内へKが移行すると考えられている。
副作用:投与1時間後に多くが低血糖になる。このためBSをチェック。
[以下カリウムの細胞内シフトオプション]
オプション1:
【GI療法にβ2刺激薬の併用】
ベネトリン吸入液 2~4mL(10~20mg)+生理食塩水 4mL 10分以上かけてネブライザー噴霧
30分程度で効果発現、1~2時間持続。
機序:β2刺激は直接Na-K-ATPaseを活性化させKを細胞内に移行させる。
α1刺激はNa-K-ATPaseを抑制しKを細胞外へ移行させる。
副作用:高用量の吸入が必要で高血糖・頻脈が強く出る
※国内ではあまり行われない。
オプション2:
【重炭酸ナトリウム投与】
メイロン 50~100mEqを2分以上かけて静注
30~60分で効果発現。1~2時間持続。
※代謝性アシドーシスの場合以外は推奨されない。
③カリウムを体外へ排出
・陽イオン交換樹脂
ポリスチレンスルホン酸Na
30~45g経口 または 50~100g注腸投与
(経口が望ましい)
2~4時間で効果発現。4~12時間持続。
作用機序:消化管より排泄
副作用:消化管穿孔・腸管壊死。ソルビトールとの併用は腸管粘膜壊死・穿孔のおそれあり避ける。
※経口液の注腸は禁止されている。添付文書をよく確認してください。
ポリスチレン酸ナトリウムとカルシウムの違いについて
成分名 | ポリスチレン酸Ca | ポリスチレン酸Na |
---|---|---|
商品名 | カリメート経口液20%、カリセラム末、アーガメイト20% | ケイキサレートDS76% |
成分量 | 5g (製剤量として25g/包) |
2.5g (製剤量として3.27g/包) |
in vitroでの理論的カリウム交換容量 | 1gあたり平均1.5mEq (1.36~1.82mEq 日局) |
1gあたり平均3mEq (2.81~3.45mEq 日局) |
1包のカリウム交換容量 | 7.5mEq/包 | 7.5mEq/包 |
※ジルコニウムシクロケイ酸Na(ロケルマ懸濁用散分包®)
2020年5月薬価収載
保険適応:高カリウム血症
用法用量:通常 1回10g1日3回 2日間、その後1回5g 1日1回投与
効果発現は1時間で作用部位は腸管全体
特徴としては透析を受けていない患者にも適応
・ループ利尿薬
フロセミド40~80mg静注
効果発現・持続時間は循環動態・腎機能によって左右される
十分な体液量・循環血漿量があり、ループ利尿薬に反応する場合は有効
※急性期の有効性は低いとされている。
・血液透析(血液透析あるいは持続血液ろ過透析)
3~5時間の血液透析で約40~120mmolのKが除去され、その15%は限外ろ過で、残りが透析による。
ほとんどの患者で最初の1時間にもっともKが除去され、3時間でほぼnadirに到達します。
その除去量を大きく左右するのは透析液K濃度で多くの臨床家は
【血清K濃度+透析液K濃度=7】という式を用いています。
しかしながら透析液K濃度が1以下というのは急速なK低下による不整脈惹起の危険性があるので避けられているそうです。
通常の2.5mEq/Lを用いて3時間透析を行うことで、アシドーシスの補正も併せて十分に目的を達成できるはずとのこと。
数十分で効果発現・持続時間は治療条件による
注意点:透析終了後のリバウンド。腹膜透析は有効でない。
緊急性のない慢性的な高カリウム血症
緊急性のない高カリウム血症の治療は、食事指導、高K血症をきたす薬剤の中止、代謝性アシドーシスの是正、適切な利尿薬の使用、K吸着薬の使用が中心になります。
本日はここれでおしまい
参考:
ICUブック 第4版
ICU実践ハンドブック 改訂版
月刊薬事 2019 Vol.61 No7
水・電解質・酸塩基平衡異常 Q&A事典
専門医のための水電解質異常診断と治療
日本集中治療医学会専門医テキスト 第3版