胸部X線、結核、B型肝炎、C型肝炎、PCP(ニューモシスチス肺炎)、骨粗鬆症リスク、耐糖能異常、脂質異常症、緑内障、NSAIDs使用有無といったスクリーニングを行う。
こんにちは。
ステロイドの処方箋をみると何を思い浮かべるでしょうか?
何に対するステロイド療法なのか?副作用チェックポイントが多くてどうしよう?
どのくらいの期間投与するのか?
あげると切りがありませんが調剤薬局も病院薬剤師も苦戦するところではないでしょうか?
ハイリスク薬にも分類されており投与開始、継続中、終了後で見落としてはいけないポイントが多岐渡ると思います。
今回はステロイド投与前にチェックすべきポイントと副作用予防のためのポイントについて確認していきます。
ステロイドによる免疫抑制作用
ステロイドによる免疫抑制作用は周知の事実かと思います。
・ステロイド投与(PSL 0.4mg/kg/日以下)により一番最初に効果がでるのが好酸球に対するアポトーシス誘導を起こし炎症を制御する働き。
・高用量ステロイド(PSL 0.5mg/kg/日以上)ではリンパ球(B細胞とT細胞)のアポトーシスを起こし結果的に免疫抑制
・ステロイドパルス療法(mPSL 500~1000mg/日)ではマクロファージによるサイトカイン産生、遊走、貪食などを低下させる効果があると言われております。
そのため、PSL換算で20mg/日以上を2~3週間続けるとT細胞が減少し細胞性免疫低下による日和見感染リスクの上昇が懸念されます。
ステロイドパルス療法を併用すると早期(2日以内)に強力な免疫抑制作用が出現すると考えられています。
※PSL20mg/日ではB細胞は減少しない。
以上からステロイドの長期投与が考えられる症例やリスクの高い症例に関してスクリーニングや予防を行う必要があります。
◆潜在性結核感染症◆
胸部X線や採血としてT-SPOTやQFT検査を施行してもらいます。
潜在性結核感染症であれば以下治療を開始してもらう必要があります。
イソニアジド錠100mg 1回3錠 1日1回 朝食後 6~9ヵ月
イソニアジドが投与できない場合
リファンピシンカプセル150mg 1回4カプセル 1日1回 朝食後 4ヵ月
リファンピシンを投与する場合CYP3A4を強力に誘導することから、
コルチゾールは1.2倍、プレドニゾロンは2倍、デキサメタゾンは5倍の用量へ増量すること。
しかし臨床においてデキサメタゾンを5倍量にするこは現実的ではないためデキサメタゾンと同力価のコルチゾールに変更するか、プレドニゾロンで2倍量など検討する。
なお、コルチゾールに変更する場合にはミネラルコルチコイド作用の増加に注意する。
◆B型肝炎◆
B型肝炎ウイルスキャリアの患者さんがステロイドを投与されるとB型肝炎ウイルスの増殖により劇症肝炎を発症することがあります。
そのためHBs抗原、HBc抗体、HBs抗体によるスクリーニングを行う必要があります。
HBs抗原陽性例には以下治療を開始してもらう必要があります。
エンテカビル錠0.5mg 1回1錠 1日1回 空腹時
C型肝炎へのステロイドの影響は、報告により異なっています。現時点では事前にC型肝炎ウイルス(HCV)のスクリーニングをして肝酵素を経過観察していくのが妥当であると考えられています。
◆PCP(ニューモシスチス肺炎)◆
免疫抑制作用に伴い発症するPCPは致死率が高いことが知られています。
PSL 20mg/日以上を1ヵ月以上投与する場合(実際この条件にあてはまらなくてもPCPを発症することがある)に加え、免疫抑制薬や抗サイトカイン療法を用いる場合、高齢または肺疾患のリスク因子があればステロイドの有無を問わずPCP予防を考慮します。
第一選択:ST合剤 1回1錠 1日1回 連日
ST合剤が使用できない場合以下の処方を検討
・アトバコン 10mL 1日1回 食後 連日
・ペンタミジン300mg 蒸留水5mLに溶解し、生理食塩水またはブドウ糖で希釈し30分かけてネブライザー吸入 28日毎
ステロイドによる骨粗鬆症
ステロイドによって引き起こされる脂肪塞栓、血管血栓、疲労(ストレス)骨折、骨細胞のアポトーシスなどが機序としてあげられています。
ステロイド使用例の約40%に大腿骨頭、大腿骨顆部、上腕骨頭、脛骨近位などの骨壊死が発症します。
図:ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン:2014年改訂版より
図よりスコア3点以上では治療の対象となり以下治療を開始してもらいます。
アレンドロン酸35mg 1回1錠 週1回 起床時
リセドロン酸17.5mg 1回1錠 週1回 起床時
ステロイドによる耐糖能異常・脂質異常・緑内障
◆耐糖能異常◆
ステロイドによる耐糖能異常の機序としてはさまざまありますがここでは糖新生の亢進を説明します。
コルチゾールは、ストレス下に分泌が刺激されるホルモンで諸々の器官で糖利用を抑制することで血糖上昇させストレス時の脳機能低下を予防する役割があります。
機序としては筋肉では蛋白質をアミノ酸に分解し、そのアミノ酸からブドウ糖が産生されます。脂肪細胞ではインスリン作用に拮抗し、ブドウ糖の取り込みが抑制されます。その結果、脂肪分解が促進され、大量の遊離脂肪酸とグリセロールが放出され、そのグリセロールは肝臓での糖新生に回り、ブドウ糖の放出を増やします。
その他耐糖能異常のメカニズムはありますが、ステロイド投与前には以上のことも踏まえて事前にHbA1C、血糖を確認しておく必要があります。
◆脂質異常◆
ステロイドの直接作用で内臓肥満となり、脂肪組織から肝臓へ遊離脂肪酸を放出して肝臓の脂肪蓄積を増加させます。さらに肝臓における中性脂肪とVLDLの合成を促進して脂質異常症をきたします。
ステロイドによる脂質異常症のメカニズムも上記以外に諸々ありますがステロイド投与前にはLDL-Cho、HDL-Cho、TGを測定しておくことが推奨されます。
◆緑内障◆
ステロイド緑内障は線維柱帯に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障に分類され、ステロイドの影響により房水流出障害が生じるとされています。
閉塞隅角緑内障の家族歴、40歳以上の糖尿病、強度近視を有する例では緑内障のリスクがあるので、PSL7.5mg/日以上を長期投与する際は眼科対診も検討してもらいます。
ステロイドによる上部消化管潰瘍
ステロイド単剤では上部消化管潰瘍は増加しないことがしられており消化管潰瘍予防は必須ではありません。
しかしNSAIDsと併用では上部消化管潰瘍リスクを上昇させます。
そのため可能な限りNSAIDsは中止するよう検討してもらいます。やむをえずNSAIDsを併用する場合は、COX-2阻害薬を選択するかアセトアミノフェン2400mg/日を4回に分けて投与 注 1)かPPIで予防をおこなうよう検討してください。
注
1)アセトアミノフェン2400mg/日はロキソプロフェン180mg/日に劣らない(急性腰痛患者) Miki K, et al:J Orthoped Sci 2018
本日はここまで。