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救急・集中治療

食道静脈瘤破裂に対する薬物療法とは?

回答

食道静脈瘤出血の緊急処置(門脈圧減少)にバソプレシンあるいはオクトレオチドを使用する。
①バソプレシンを使用する場合
・バソプレシン    持続点滴を0.2~0.3単位/minで開始
・ニトログリセリン 持続点滴を0.2μg/kg/minで開始し血圧低下に注意しつつ50μg/minまで増量維持。
(ニトログリセリンはバソプレシンと併用することで相乗効果+バソプレシンの副作用予防となる)
投与期間:持続投与は24時間程度とする。
②オクトレオチドを使用する場合
・オクトレオチド ボーラスで50μg静脈内投与しその後、持続点滴を50μg/hrで静脈内投与する。
投与期間:通常出血が止まった後3~5日間継続。

食道静脈瘤の原因としては門脈圧亢進症があります。
門脈圧亢進症の原因としては肝硬変などの肝臓内抵抗性のものが最も多く、また肝前性(門脈血栓症など)、肝後性(バッドキアリ症候群など)の場合もあります。

門脈の解剖おさらい

上記図のように正常循環だと、腎静脈は下大静脈(大循環系)に入る。また上腸間膜静脈や左胃静脈、脾静脈は門脈へ入り肝臓の血管(類洞)を介し下大静脈(大循環系)に合流する。

食道静脈瘤ができる原因

門脈圧が亢進する病気として肝硬変が有名なので肝硬変を例に確認してみましょう。
上記図のように、肝硬変により線維化が起こると類洞が器質的に狭くなるため肝臓内の血管抵抗性が上昇します。そうなると肝臓に入る前の静脈、つまり門脈圧が亢進します。門脈圧が高くなると門脈へ血液が流れにくくなります。上腸間膜静脈、左胃静脈、脾静脈の血流は門脈へ戻ろうとしますが血液の渋滞がおこりやがて腸管や胃、脾臓といった臓器にまで血液の渋滞が起こってしまい非常に困った状態になります。
この血流をどこかに逃がしてやらないといけなくなるわけで、その逃げ道の一つとして食道静脈瘤が形成されることになります。こうして新たに側副血行路として形成された食道静脈瘤の血流は奇静脈経由で大循環系(ここでは上大静脈になる)に帰るといった流れができます。しかし食道静脈瘤が次第に大きくなると血管は脆くなり胃酸などがふれると破裂し大出血を起こす「食道静脈瘤破裂」が起こるわけです。

食道静脈瘤は内視鏡的処置が第一選択

上記図のように肝硬変などによりできた食道静脈瘤が破裂した患者さんに対しては内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)や内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)による緊急止血術を施行します。

図 EIS (Endoscopic injection sclerotherapy)
内視鏡で幹部を確認しながら専用の器具で薬剤を静脈瘤に直接注射します。使用するのは硬化剤と呼ばれる薬剤の、オレイン酸モノエタノールアミンと、エトキシスクレロールのどちらかです。

図 EVL(Endoscopic variceal ligation)
ゴム製のバンドで食道静脈瘤を結紮(けっさつ=縛る)し、静脈瘤への血流を止めることで壊死させる方法です。

食道静脈瘤破裂時の薬物療法

薬物療法も有効で静脈瘤出血時の緊急止血に血管作動薬であるバソプレシンやオクトレオチドを使用します。

さきほども説明しましたが門脈圧上昇がおこると正常な循環が保てなくなるため食道静脈瘤や胃静脈瘤といった逃げ道をつくり大循環に戻ります。できた静脈瘤にはさらなる圧がかかり続けるとやがて脆弱化し破裂してしまいます。
そのため食道静脈瘤破裂時には門脈に圧をかけず出血を抑えるために血管収縮薬を使用することで門脈への血流を少なくし結果的に食道静脈瘤に向かう血流圧を減らします。

バソプレシン使用の場合
バソプレシンは腎集合管のV2受容体に結合し水の再吸収を促進しますが一定濃度以上では血管平滑筋のV1受容体に結合し強力な血管収縮を生じます。
バソプレシンは腸間膜細動脈を直接収縮させることで門脈への流入を減少させます。
0.2単位/minのバソプレシン持続点滴によりhepatic venous pressure gradient(HVPG:閉塞肝静脈圧―自由肝静脈圧:正常6mmHg未満)を40%低下。血管収縮作用が強い分、副作用として腸管虚血、心筋虚血、不整脈などがあります。
このためバソプレシン使用時には必ずニトログリセリン点滴を併用します。両者の併用は副作用の予防に有効であるのみならず、バソプレシン単独時より大きな門脈圧低下が得られます。
またバソプレシンの投与では水の再吸収があるため低Na血症も注意。

・バソプレシン    持続点滴を0.2~0.3単位/minで開始
・ニトログリセリン 持続点滴を0.2μg/kg/minで開始し血圧低下に注意しつつ50μg/minまで増量維持。
投与期間:持続投与は24時間程度とする。
※バソプレシンの添付文書には食道静脈瘤出血の緊急処置に対して0.1~0.4単位/minの注入速度で持続的に静脈内注射と記載

具体的な処方例
バソプレシン20U/A 1Aを5%ブドウ糖 100mLに混和し、60mL/hrで投与開始。
24時間投与を見越す場合バソプレシン20U/A 15Aを5%ブドウ糖250mL(300U/250mL)に混和し、10mL/hrで開始。

オクトレオチド使用の場合
オクトレオチドの門脈圧減少機序に関しては不明点が多いですが、
胃酸分泌を抑制し、胃十二指腸粘膜への血流を減らす作用、血管を拡張させるホルモンであるグルカゴンやその他ホルモンの放出を阻害することが一因とされています。
オクトレオチドの副作用としては悪心・嘔吐、グルカゴン拮抗作用やインスリン拮抗作用があるため一過性の高血糖や低血糖に注意が必要です。

オクトレオチドの食道静脈瘤破裂に対する使用は適応外使用となっていますので注意してください。

オクトレオチド ボーラスで50μg静脈内投与しその後、持続点滴を50μg/hrで静脈内投与する。
投与期間:通常出血が止まった後3~5日間継続

具体的な処方
オクトレオチド 50μgを静脈よりボーラス投与後、オクトレオチド皮下注(100μg/mL) 10Aを生食食塩液40mL(1000μg/50mL)に溶解し、2.5mL/hrで持続静脈内投与開始する。

本日はこれでおしまい。

参考:
肝硬変診療ガイドライン 2015
日本門脈圧亢進学会雑誌 2001
ICU/CCUの薬の考え方、使い方 ver.2
up to date 2020/10/8現在